カーゴニュース 2024年6月27日 第5254号
エレコム(本社・大阪市中央区、石見浩一社長)の「兵庫物流センター」(兵庫県猪名川町)は、作業員のもとまで自動で製品が運ばれる「GTP(Goods To Person)ステーション」を構築し、ピッキングなどにおける作業員の歩行を最小限に減らすことで〝歩かない物流センター〟を実現した。人手不足への懸念が高まる中で、より少ない人員でも小口出荷の増加に対応できる体制を整備し、従来拠点と比較して約62%の省人化を達成。今後は他拠点への水平展開を図りながら、さらなる省人化にチャレンジしていく方針だ。
新設移転でBCP対策と小口出荷増に対応
エレコムの物流体制は、「神奈川物流センター」(相模原市中央区)が東日本エリア、「兵庫物流センター」が西日本エリアの製品供給を担う東西2拠点体制となっている。両拠点とも店舗向けや法人向け、ECの出荷に幅広く対応。このうち、「兵庫物流センター」は2022年、猪名川町の山間部に立地する「プロロジスパーク猪名川2」の5階に開設した。これまで西日本での製品供給を担っていた「大阪物流センター」(大阪市西淀川区)の機能を移転したもので、延床面積約2万6446㎡。約1万5000SKUの製品を取り扱い、1日に最大約12万ピースの出荷を可能とする。
移転先に猪名川町を選んだ最大の理由はBCP対策だ。前拠点は大阪の湾岸部にあり、自然災害時における高潮や津波の被害が懸念されていた。また、大型台風の発生時には、飛来物が施設の壁を破壊する事態も発生。物流部の町一浩部長は「今後も異常気象や南海トラフ巨大地震発生の可能性が懸念されるため、新拠点は内陸部に設けることを前提とした。また、猪名川町は地盤が強いことから、震度6以上の震災が発生する確率が1・2%と低く、事業継続の観点から最適な立地だった」と選定の理由を語る。
また、前拠点ではデジタルピッキングシステムと人手によるピッキングを併用していたが、コロナ禍に伴うEC需要増で個人向けの小口出荷が増加したことで、人手に依存した従来のオペレーション体制では対応が難しくなった。さらに、エレコムの出荷はこれまでBtoBが主力だったこともあり、「大阪物流センター」には大口出荷用の設備は整っていたものの、小口出荷用の設備については十分でなく、新たな出荷トレンドに対応した庫内設計を構築する必要があった。
シャトル型自動ラックとAGVがGTPの要
今後さらなる人手不足やEC 需要増が予想されるため、新拠点では少ない人員でも出荷量の増加に対応できるよう、自動化機器による徹底的な作業の省人化・省力化を目指した。そこで、作業員が歩いて製品をピッキングするのではなく、製品のほうが自動で作業員に近づく「GTP」をコンセプトに採用。町氏は「前拠点ではピッキングエリアまでの搬送や倉庫への格納などにおける歩行時間が、業務時間の2割以上を占めていた。歩行の削減を省人化のポイントに据えた結果、『GTP』の考え方に行き着いた」と語る。庫内設計では〝歩かない物流センター〟を目指し、自動化機器の導入による「GTPステーション」の構築を推進した。
そのコンセプトの要となる機器であり、「兵庫物流センター」の心臓部とも言えるのが、イトーキ製のシャトル式立体自動倉庫システム「システマストリーマーSAS‐R」だ。自動ラック内に格納されている製品を、出荷オーダーに合わせてドーリーがピッキングエリアまで高速で運ぶシステムで、作業員は保管場所まで製品を取りに行く必要がないため、ピッキング作業に集中できる。自動ラックは10段×13スパンを19基設け、最大約4万オリコンまで格納可能。ドーリーの最高速度は分速300mとなる。
また、パレットの搬送でも歩行レスを目指してAGVを導入。セキュリティの観点などから国内メーカーのAGVであることを前提に選定し、ホクショー製の「HART500」を採用した。しかし、ホクショーの既存AGVは広大なセンター内で迅速なオペレーションを実施するには、搬送速度の遅さが課題だった。そこでエレコムはホクショーと共同でAGVの改良に着手し、約1年をかけて搬送速度と安定性を向上したモデルを開発。現在は24台が同拠点の〝足〟として稼働している。
入荷~出荷まで全ての作業で歩行レスに
入出荷のオペレーションの基本的な流れは、まず入荷エリアで荷降ろししたパレット単位の製品を、指定のロケーションまでフォークリフトで運んで保管する。その後、補充指示を受けた製品を積んだパレットをAGVが自動開梱機まで搬送。開梱された段ボールは補充エリアに運ばれ、作業員が製品をオリコンへ詰め替える。製品が入ったオリコンはコンベアを流れて自動ラックに格納される。空になった段ボールは、従来はカゴ台車に乗せて回収していたが、現在は作業員の頭上にレーンを設け、段ボールを乗せるだけで自動的に回収される仕組みを構築した。
出荷時には、オーダーに合わせて自動ラックがオリコンをピッキングエリアへ搬送。作業員は手元に届いたオリコンから、ディスプレイの指示に沿って製品をピッキングし、ソータに乗せる。ピッキングエリアは大口出荷用と小口出荷用に分けられている。
ソータに乗せられた製品は、高速仕分けシステム「クロスベルトソータ」によって顧客別に自動で仕分けられる。仕分けられた製品は作業員が送り状と一緒に段ボールに詰め、自動梱包機で梱包された後、配送車両が待機する出荷エリアへと送られる。自動梱包レーンや出荷エリアまでのレーンも大口出荷用と小口出荷用がそれぞれ整備されている。
入荷エリアから出荷エリアに至るまでの人の手による作業は実質、保管エリアへの格納、オリコンへの詰め替え、ピッキング作業、仕分けられた製品の箱詰めのみとなり、いずれの作業も歩行レスを前提とした設計となっている。
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