カーゴニュース 2026年3月26日 第5422号
「2024年問題」などトラックドライバー不足の深刻化を受け、貨物鉄道輸送への期待は間違いなく高まっている。とはいえ、JR貨物の現状は、相次ぐ自然災害の影響などもあり、潜在的ニーズを十分に捕まえ切れずにいる。現行の中期経営計画が最終年度を迎えようとするなか、どのようなグループ成長戦略を描こうとしているのか――。犬飼社長に現状認識や今後の事業課題、安全問題、JR貨物を取り巻く構造的課題への向き合い方などを聞いた。 (インタビュアー/西村旦)
足元は前年割れ、鉄道シフトへの実感乏しい
――まずは、足元の荷動きをどのようにご覧になっていますか。
犬飼 今年度の鉄道コンテナ輸送は10月までは比較的好調に推移してきましたが、11月以降、前年割れする月が続いています。要因としてもっとも大きいのは、夏場の猛暑など異常気象の影響で北海道を中心に農産品の不作が続いたことです。さらに、北日本の広い地域で寒波による雪害が発生し、1月20日から2週間以上もの間、北海道と本州の間が不通になるなど大規模な輸送障害が起きてしまいました。運転再開後、お客様の荷物は比較的順調に戻っていますが、全体的な荷動きは力強さを欠いていることもあり、3月の輸送量はほぼ平年並みで推移しています。景気全般が停滞していることもありますが、「2024年問題」による鉄道シフトが実感としてあまり感じられない状態が続いています。
――鉄道モーダルシフトの取り組み自体は順調に増えており、我々メディアも連日のように報道しています。
犬飼 確かに、鉄道をご利用いただいた新たな輸送の事例は着実に増えていますし、既存のお客様が利用を増やしていただく動きもあります。その意味で「24年問題」を背景にした利用拡大は間違いなく進んでいると言えます。しかし、その一方で当社がベースカーゴと呼んでいる農産品や食料工業品、化学工業品などの品目に勢いがないため、輸送実績という数字ベースには増送として表れていないのが実状です。
他方、車扱の直近の荷動きは、気温が低いこともあって灯油などを中心に石油類が前年プラスで推移しています。さらに中東情勢の混乱によって、ガソリンや軽油などを前倒しで購買する動きが出ており、短期的には輸送量が増えることも考えられます。とはいえ、その先には物価上昇による消費マインドの減退なども予想されるため、先行きは不透明な状況が続くことも考えられます。
――足元の荷動きは厳しいものの、年度累計では前年度の実績を上回りそうです。
犬飼 上期の〝貯金〟によって、2月末時点でのコンテナ実績は前年同期比2%程度のプラスを維持しており、このまま大きな輸送障害などがなければ前年度を上回る数値は何とか確保できそうです。
――2026年3月期決算の見通しについてはいかがでしょうか。
犬飼 第3四半期が終了した時点で、通期での連結業績予想を売上高2103億円、経常利益25億円に下方修正しました。しかし、その後に雪害による大規模な輸送障害が発生したため、この予想数値を下回ることは避けられない状況というのが、現時点での偽らざる思いです。
――今回の雪害についてうかがいます。結果として、想定を大きく上回る輸送障害になってしまいましたが、自然災害でもあり経営としてはいかんともし難い面があります。
犬飼 約700本の貨物列車が運休になるなど、雪害としてはJR貨物発足以来、最大規模となってしまいました。陸路でつながっている部分、例えば日本海縦貫線がダメなら東北線で迂回輸送するといった取り組みは可能な限り行いましたが、北海道・本州間がストップしてしまうと残念ながら打つ手がほとんどないというのが実状です。
あえて課題を申し上げれば、船舶代行の手配をもう少し前倒しして、仮に列車の運転再開と重なってしまったとしても早期に判断すべきだったかもしれないという反省は残ります。しかし、今回の輸送障害の規模から考えると、船舶代行でカバーできる範囲はごく限定的で、実質的な意味でのサポートにはなり得なかったことも確かです。
経営としては、こうした事態が起きることをあらかじめ計画に織り込んでいく必要がありますが、実際問題としてどのレベルまで織り込むべきなのかの見極めも難しいものがあります。今回の輸送障害は結果的にそれくらい大規模なものになってしまいました。
「安全の価値観」を浸透・定着させる
――4月から始まる新年度の事業計画や目指す方向性はどのようなものになるでしょうか。
犬飼 26年度は現行の中期経営計画である「JR貨物グループ中期経営計画2026」の最終年度となりますので、現中計で掲げた目標の実現に向けた基本的な考え方に変わりはありません。そのなかでも、すべての事業活動の根底をなすのが安全であり、「安全の価値観」を浸透・定着させるための取り組みに引き続き力を入れていきます。それに加えて、安定輸送の実現と総合物流企業グループへの進化を最終年度でいかに仕上げ、次の中計につないでいくことができるか――大きく言ってその3点が中心となります。
さらに、鉄道事業と不動産事業の一体的な取り組みを進めることで、鉄道運輸収入が収入のほとんどだった世界に、いかに保管などの物流ソリューションで収益を上げられる仕組みを広げることができるかを追求していきます。また、不動産事業単独でも、不動産をファンドに売却して得た資金を再投資していく回転型ビジネスの中で、やや物流施設に偏りがちだった不動産ポートフォリオを他の不動産にも振り向けていくことも検討していきます。
――その安全ですが、犬飼社長はことあるごとに、安全の重要性を強調されています。しかし、細かいものを含めると安全を損なう事案がなかなか減らないことも確かです。
犬飼 当社は一昨年の輪軸不正で事業改善命令を受けている立場でもあり、まずそのことを深く自覚すべきです。その上でいかに安全意識を社員に浸透・定着させることができるか、その具体的な手立てを考えていかなければなりません。鉄道事業はいったん事故が起きれば人命を損なう重大事案につながる危険性をはらんでいます。私自身、事故や事象が起きるたびに「やはり安全がすべてに優先する」という基本の大事さをあらためて痛感しています。安全という基盤がなければ、鉄道事業の拡大も総合物流も成り立たないということを社員一人ひとりが肝に銘じなくてはいけません。
最近発生した事故や事象を見ていくと、以前と同じ原因で起きているものが多く、その意味で基本が徹底されていないと言わざるを得ません。ただ、当社の社員も世代交代が進み、最近では若い社員がさらに若い社員を教えるケースが増えるなど、教育という観点からは難しい面が生じています。そうした部分を補うために、OJTによる実地教育だけでなく、座学による机上の教育を通じて基本的なマニュアルの重要性を教えていく必要があります。マニュアルに基づく確認事項の徹底は事故につながる危険性を未然に防ぐものですが、仮にマニュアルに定められた確認を怠っても、仕事自体はできてしまうこともあります。そこが難しいところであり、座学によって何故マニュアル通りにやらないといけないのかなど安全意識のベースをしっかりと教え込んでいくことが大事になります。
また、当社の社員は真面目で責任感が強いために、列車が遅れている場合に「早く出さないといけない」と必要以上に焦ってしまうことも少なくありません。しかし、それが原因で事故が起きてしまえば元も子もないわけです。私も「列車が遅れてもいいから、安全を最優先にしなさい」「不安を感じたら列車を止めなさい、止めればそれ以上の事故は起きない」と繰り返し伝えています。そうした意識を変えてくためにも、〝安全がすべてに優先する〟という価値観を繰り返し伝え、職場風土から変えていく必要があります。
――安全意識の醸成に加えて、ハード面での対策も不可欠です。
犬飼 人間である以上、ヒューマンエラーは避けられないため、ハード面からカバーしていく取り組みも進めていきます。すでに手ブレーキ検知システムを順次導入しているほか、コンテナの緊締状態などを確認する積み付け検査においても、作業員による目視に加えて画像認識技術の導入にも取り組んでいきます。
定温物流の拡大に注力していく
――鉄道事業については、来年度にどんな部分に注力していくお考えでしょうか。
犬飼 現在、国による支援もいただきながら導入が進んでいる31ftコンテナを使った輸送をどう伸ばしていくかが大きなテーマのひとつです。また、食品や医薬品など幅広い分野でニーズが高まっている温度管理分野をいかに伸ばしていくかも課題です。定温物流は現在、利用運送事業者などの私有コンテナに頼った〝他力本願〟にとどまっていますが、アイスバッテリーなど新たな技術を使うことで既存のドライコンテナでも温度管理をしながら輸送を行うことができる可能性があります。検証を行いながら実用化に向けた道を探っていきたいと思っています。
――経営基盤の強化も現中計における主要テーマとなっています。
犬飼 グループのガバナンスやコンプライアンス強化に取り組んでいますが、そのなかでとくに懸念しているのが情報セキュリティです。近年、企業へのサイバー攻撃が頻発しており、当社グループもセキュリティ対策の強化が喫緊の課題だと認識しています。また、社員目線での働きやすさを高めていく取り組みとして、DE&I(Diversity、Equity & Inclusion)や健康経営の推進にも力を入れていきます。
――今期から始まった回転型不動産ビジネスですが、約1年間取り組まれた成果をどのように評価されていますか。
犬飼 具体的な個別案件については申し上げられませんが、不動産をファンドに売却して、そこで得たキャッシュを次の不動産投資につなげていくという動きは、すでにいくつかの物件で実施済みです。投資先は必ずしも物流施設だけでなく、他の不動産も含めた候補を事業開発本部で選定した上で一定の利回りを確保するスキームを組んでいます。どの保有不動産をファンドに売却して回転型の対象にするかについても社内で検討し、毎年金額ベースで一定規模を流動化していくイメージです。保有不動産を丸ごと売却することもありますが、大規模施設の場合は分割した一部をファンドに入れるケースもあります。
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