カーゴニュース 2026年3月26日 第5422号
運賃アップはサービス継続のために不可欠
――4月から鉄道運賃を9%引き上げる運賃改定を実施しますが、利用運送事業者や荷主の受け止めはいかがでしょうか。
犬飼 2年前の24年4月に6%を引き上げたのに続き、今回9%の改定を実施することとなり、お客様に一定の抵抗感があることは理解しています。とはいえ、あらゆるコストが急激に上昇しており、将来にわたって貨物鉄道サービスを継続していくためには原資が必要であることをご理解いただきたいと思います。もちろん効率化など社内でやれるコスト抑制策はしっかり取り組んでいきます。その上で、企業努力でカバーし切れない部分について認めていただけないと、すぐに何かのサービスをやめるということはないものの、将来に向けた前向きな投資計画が立てられなくなってしまいます。
他方、運賃改定によって一定程度のお客様が鉄道輸送から離れてしまうことも覚悟しています。その点から、改定による増収効果を見込む一方で、お客様の離反による減収もあるだろうと思っています。今後、トラックの適正原価制度が始まれば、全般的な物流コストは上昇していくことが予想されます。当社の場合は「安いから使っている」との声があることも承知していますが、物流業界全体の課題として荷主の皆様にご理解をいただかないと、物流の持続性そのものが担保できなくなります。
――約2年後にトラックの適正原価制度がスタートすれば、トラック運賃はほぼ間違いなく上昇します。そうなると貨物鉄道の競争力は高まるとの見方があります。
犬飼 鉄道輸送は、当社の鉄道運賃と利用運送事業者による貨物駅両端のコンテナ集配料金のトータルで考える必要がありますが、鉄道運賃だけで言えば十分に競争力を保てるだろうと考えています。ただ、当社もコスト構造面で改善しなければならない点はまだまだたくさんあることも事実です。できればアセットをもう少し軽くした上で、輸送力を維持・向上させていきたいと考えています。例えば、列車の入換作業やコンテナの中継作業の削減など、列車体系を含めた見直しを行うことで、コストをさらに抑制することは可能だと考えています。また、コンテナの運用効率も低く、これをどう高めていくことができるかなど、我々自身が努力すべきところはたくさん残されています。こうした点を改善せずに、ただコストがかかるからという理由だけでは、お客様の理解は得られません。様々な自助努力を重ねた上で、それでもお願いしますというスタンスが大事になると考えています。
――今年4月から大手荷主に「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化されます。物流の持続可能性が重視されるなかで、荷主企業の物流コストに対する考え方も変化することが期待されます。
犬飼 CLOが選任されることで、物流に対する企業内での見方が変わっていくことに期待しています。例えば、当社が持っている高い環境価値を評価していただくことで、より高い見地に立って鉄道輸送の利用を進めていただければありがたいです。また、将来的には、鉄道利用によって削減したCO2排出量をカーボンクレジットとして創出できる仕組みが確立されれば、貨物鉄道の競争力がより高まる可能性があります。
総合物流の提案の幅が格段に広がった
――総合物流事業についてうかがいます。昨年4月に「JR貨物ロジ・ソリューションズ」がスタートして約1年が経過しました。
犬飼 もともとは数年前に当社内に総合物流部という部署をつくっていましたが、いくら主体的に案件を手がけたとしても、JR貨物として収受できるのは鉄道運賃だけというのはさすがにもったいないと感じていました。そこで、昨年4月にグループ会社である日本運輸倉庫を「JR貨物ロジ・ソリューションズ」に社名変更するとともに、当社の営業社員も出向させて、ソリューション提案型の総合物流事業を本格的に展開できる体制を整えました。
JR貨物本体が手がけていた時との最大の違いは、鉄道だけでなくトラックや船舶など他の輸送モードを駆使した提案が可能になったことです。JR貨物が〝主語〟の場合は、鉄道輸送の提案をしても条件面などで折り合わなかった場合にはそこで交渉が終わっていましたが、ロジ・ソリューションズが主体となればトラックや船舶を使った別のソリューション案を示すことができます。さらに、日本運輸倉庫時代からの主業である倉庫保管を含めた提案もできるため、お客様への提案の幅が格段に広がりました。
この1年間の活動で、ソリューション型3PL企業として徐々に認知されるようになっており、これまで扱ってこなかったような受託事例も増えています。社名に「JR貨物」を冠したことで、新規営業先でも即座に断られることはなく、少なくとも話だけは聞いていただけるという効果もあるようです。さらに副産物として、営業社員の提案能力も大きく向上していると感じています。
――輸送障害時におけるBCP対応という点でも、グループ内でトラックや船舶の輸送力を調達できることは大きなメリットがあります。
犬飼 輸送障害時が起きた場合、JR貨物としては利用運送事業者と連携して代行トラックなどを用意するしか手立てがありませんが、ロジ・ソリューションは元請けの立場からトラックなどの代替輸送力を調達するといった臨機応変な対応が可能です。複数モードを使いわけることで、JR貨物グループとしてお預かりした荷物をしっかりと運び、サービスを完結させることができるという点も、大きな強みになると考えています。
まずは我々自身が「なくてはならない存在」になる
――最後に、JR貨物を取り巻く構造的な課題についてうかがいます。27年3月末に旅客会社との線路使用料の改定時期を迎えるほか、並行在来線の線路使用料に関する貨物調整金制度の見直し期限が30年度末に迫っています。さらには、北海道新幹線の札幌延伸に伴う「海線」の維持など、経営基盤を大きく左右するテーマが横たわっています。これらの課題に対する向き合い方を教えてください。
犬飼 国鉄を分割民営化した際の基本的な枠組みは、当社が民間の株式会社として生きていくための前提となるものです。従って、線路使用料におけるアボイダブルコストルールや並行在来線に関する貨物調整金など、当社が全国ネットワークによる貨物鉄道事業を続けていく前提となる部分については、現行ルールを維持していただかなければ経営が立ち行かないというのが基本となります。
他方、現行ルールを維持するためには、もっと輸送量を増やして国内物流において一定の役割を担いなさい、というご指摘が各方面からあることも理解しています。そうした指摘に応えていくためにも、現中計では当社グループが「なくてはならない存在」へと進化していくことを掲げていますが、そこは私自身が強くこだわった点でもあります。お客様や利用運送事業者だけでなく、広く国民の皆さんからも「貨物鉄道輸送は必要だ」と思っていただける存在になることが何よりも大事だと考えています。
現在、当社による貨物鉄道輸送は、トンキロベースで国内物流の約5%を担っていますが、トラックや船が動いていればことが済んでしまうのではないか、貨物鉄道はいらないのではないか、と思われてしまうかもしれないという強い危機感を私は常に持っています。そうではなく、「ないと困る」とどこまで思っていただけるか――環境面や労働生産性における貨物鉄道の優位性をどこまでアピールしていけるか。そのためには、まずは我々自身が「貨物鉄道がなければ、日本の物流は維持できない」ということを実績として示し続ける必要があります。
――まずは自分たちの努力でどこまでできるかということですね。
犬飼 現中計で「既存アセットの最大活用」を謳ったのもそういうことです。ないものねだりではなく、まずは自分たちが持っているアセットを最大限に活用しながら、どこまで収益を高めていけるかにフォーカスしています。繰り返しになりますが、分割民営時の〝生命維持装置〟とも言えるスキームの維持は大前提となりますが、そのことを胸を張って主張していくためには、当社がやれることはしっかりとやっていく必要があります。その先に、国が貨物鉄道輸送に新たな役割を期待するということであれば、それに必要な財政的な支援などについてご相談をさせていただきたいと考えています。
犬飼 新(いぬかい・しん)
1985年早大教卒、同年、間組(現・安藤ハザマ)入社。2003年JR貨物入社。北海道支社長などを経て、15年執行役員関東支社長、17年取締役兼執行役員鉄道ロジスティクス本部営業統括部長、18年6月取締役兼常務執行役員鉄道ロジスティクス本部長、20年6月同経営統括本部長、22年6月現職。1959年生まれ、66歳
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