カーゴニュース 2026年7月7日 第5449号
汽車よりも汽船長生き春の沖 敏雄
先ごろ80歳で亡くなった知人のKさんは65年前、公立中学を出ると5年制の高専(高等専門学校)へ進学した。二十歳で卒業すると日本を代表する超大電機メーカーへ就職して、静岡県にある、それだけでも大企業とも言える基幹工場へ配属された。そして60年。最初は現場のリーダー見習いで、やがて研究開発のグループ・メンバーとなって、技術開発改善、商品化計画などの中堅管理者となり、50歳を超えるとこの工場の上級管理者となった。入社以来、一回も転勤していない。この大規模な工場のなかで技術者人生を送った。もちろん、一流大学の大学院を出て本社と工場を行き来して会社の重役となる技術エリートとは違う。Kさんは好きな電子工学の技術者として、同じような仲間たちと公私にわたって(苦しいこともあっただろうが)楽しい工場生活を送ったのである。有名な大企業だから給料などの待遇も悪くないし、退職金もそれなりに出た。定年後も嘱託で技術指導をし、ほかの会社の援助もした。静岡に一軒家を構え子供も育って、癌を患ってからものんびりした老後を過ごした。
理想的なサラリーマン人生ではないか。勤め人になるならこういうのがよい。大卒総合職で警察庁に入り、あちこちの県警に行き、本省の管理職か公益団体の理事になっていく行政官僚のエリートよりも、県警に入り、興味ある捜査畑で警部となり、ベテランの警視になって退職するというプロが羨ましく、愉快な人生のような気がする。それと似ているかもしれない。僕の高校時代の仲間に神奈川県警に入り、ずっと捜査二課で働き、警視正で退職したのがいた。「仕事は楽しかった」と言っていた。神奈川県から外へ出ていない。これと似ているように感じた。現在、東大卒で県警に巡査として入るものが出てきているという。現場の仕事をしたいという。高専に行くというのはこういうことではないか。
文系の人やメーカー以外の人に高専はなじみがないが、大企業の製造業では昔から高専を現場の高級技術者として位置づけ定期的に採用し、育成するというコースを持っている。高専は高く評価されている。この高専が今、脚光を浴びようとしている。高専は現在、全国に58校ある(ほとんどが国立で私立は7校)。中卒で入学し、5年制で卒業は20歳で短大と同じであるが、その上に専攻科があり、ここを出ると大卒と同じになって大学院に進む選択もある。中学を出るとすぐに興味ある専門技術者の道を歩むことになる。政府はこの高専の拡充の方向を打ち出している。今、多くの文系大学が定員割れに陥っており、その4割は廃止させるという。そうでありながら政府は私立を含めて高専の拡充、増設を考えている。一校当たり20億円もの支援をするという。
今、物流業界では大学での物流教育を熱望している。物流に興味を持つ、物流業界に就職したい、という学生を「養成してくれ」というわけである。しかし、基幹科目でない物流論をポツンと置いても効果はないだろう。僕はむしろ、今、「物流高等専門学校」を作るようにした方がよいと思っている。戦前も専門学校というのがあった。旧制の専門学校というのはほぼ意識的に旧制大学と同格であり、学校スポーツの大会の参加資格として旧制大学と旧制専門学校は一緒に競い合った。朝ドラ「虎に翼」の明治法律専門学校はのちに明治大学になっているし、戦前の箱根駅伝で活躍した横浜専門学校は神奈川大学となった。高専という名前は意識として実用的な専門大学のようである。もし、僕が中学生だった時、歴史文学高専があったらそれを狙ったかもしれない。行政も物流業界も今こそ、「物流高専」を設立すべきだと思うし、定員割れに悩む大学は高専に変わる方がよいと思う。その中に物流高専がある。カリキュラムくらい、物流理論と物流技術を組み合わせて僕が作ってあげてもいいよ。
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