カーゴニュース 2026年7月30日 第5456号
2025年6月に議員立法により成立した「トラック適正化二法」。トラック運送業界側が主導して実現にこぎつけた、ドライバーの賃上げと業界の健全化を目的とした法律だ。国が定める「適正原価」の導入による取引環境の改善を図るとともに、事業許可更新制により悪質な事業者に市場からの退出を促すほか、業界の多重下請構造を是正するなど、業界が〝自らの襟を正す〟姿勢を打ち出した。〝本丸〟とされる「適正原価」の制度設計に関わる検討が7月に開始されたところで、あらためてトラック適正化二法の全貌を読み解く。
ポイント①
目的はドライバーの賃金確保と業界の質の向上
トラック適正化二法の最大の特徴は、法律の成立にあたってトラック運送業界側が主導したこと。全ト協の前会長の坂本克己氏(現・最高顧問)がけん引役となり、トラック労組の協力も得て、超党派の国会議員による議員立法として可決・成立した。国会審議では、「エッセンシャルワーカーであるトラックドライバーの経済的・社会的地位の向上等により、物流の持続可能性の確保と国民経済の健全な発展を図る」とし、同法の成立により「トラックドライバーの適切な賃金の確保とトラック運送業界の質の向上」を目指すとした。
「二法」から成るのは、貨物自動車運送事業法の改正法と、改正項目を担保する新法を定めたことによるもの。改正項目の柱は、ドライバーの賃上げと業界の質の向上に深く関わっており、①多重下請け構造是正に向けた委託次数の制限②委託次数の制限と関連し、貨物利用運送事業者に対する書面交付などの義務化③違法な白トラ利用への荷主規制強化④事業許可の5年ごとの更新制導入⑤「適正原価」を下回る運賃契約の禁止――の5つ。これらを通じて業界の労働環境と取引条件を抜本的に改善する狙いだ。
法律の施行状況は、「委託次数の制限」「貨物利用運送事業者の書面交付などの義務化」と、「『白トラ』利用への荷主規制強化」が、今年4月1日に施行された。一方、「事業許可更新制の導入」「適正原価制度の導入」については、公布後3年以内に施行すると定められていることから28年6月10日までに施行される。事業許可更新制は制度運用が始まってから2年間の経過措置を設けることとなっている。つまり、既存の事業者の事業許可チェックは30年以降に行われることになる。
ポイント②
適正原価計算式と単価を当てはめ自社で算出
トラック事業者、荷主双方が最も関心を寄せているのが「適正原価」の導入だ。国が定めた「適正原価」を下回る運賃での受発注を禁じるもので、20年に告示された「標準的運賃」があくまでも“目安”であったのに対し、「適正原価」はトラック運送業(利用運送、貨物軽運送含む)、荷主双方にとって“義務”であり強制力がある。「標準的な運賃」は、適正原価制度がスタートした時点で廃止となるが、既存のタリフのように運賃指標の「ひとつの参考」として市場で利用されることは国も想定しているようだ。
適正原価のベースには、「健全なトラック運送業を営むために収受すべき運賃・料金の原価を示す」という考え方がある。具体的には、燃料費、全産業の労働者1人当たりの賃金平均額を踏まえた人件費、減価償却費、輸送の安全確保のために必要な経費、委託手数料、事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資、公租公課等――の適正な事業運営の確保のために通常必要と認められる費用を的確に反映して積算し、国交省が告示する。一般的な「原価」と異なるのは「必要不可欠な投資の原資」も含まれている点だ。
制度設計の検討もいよいよ始まった。国交省は今月17日に「適正原価の設定に向けた有識者検討会」の初会合を開催し、年内にも一定の方向性を示したい考えだ。適正原価の告示は、関係省庁、トラック運送業界労使、荷主団体などがメンバーとして参加する有識者検討会が提言を取りまとめ、その内容について、政府の物流政策推進会議が承認した後、国交省の運輸審議会の諮問を経て告示されることになる。施行までの準備期間から逆算し、原案が出てくるのは27年6~7月頃とみられる。
17日の「適正原価の設定に向けた有識者検討会」では、適正原価について大きな方向性が示された。ひとつは、国が告示するのは、総稼働時間や走行距離などから算出する適正原価の「計算式」と、計算式に当てはめる固定費・変動費の「単価」だということだ。つまり、トラック運送事業者は自社で計算式に当てはめて適正原価を計算し、利潤を上乗せしたものを自社の運賃とする。運賃タリフ表で示した「標準的運賃」とは異なる形での告示となる見通しだ。
また、適正原価の運用についても考え方の方向性が提示された。具体的には、「1回ごとの取引で適正原価を下回ったからといって、即時に違反となるのではない」ということだ。国交省は、「一定期間継続して下回る場合が違反に相当する」とみなす。この場合の「一定期間」については有識者検討会で検討中だが、「1年間」とする案や、「5年以内の相当期間」とする考えも出ている模様。適正原価は義務でありながら、運用には柔軟さがあるとわかり、一定の競争が働くとの好意的な意見や、一部の荷主からは〝安堵感〟も聞こえてくる。
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