カーゴニュース 2025年3月4日 第5320号

FOCUS/インタビュー
日本事業の強じん化をグローバル成長につなげる
「社内カンパニー制」で国内再構築を加速

日本通運 代表取締役社長 竹添進二郎 氏

2025/03/03 17:00
FOCUS 総合物流・3PL インタビュー

大手175社に「アカウント事業所」配置

 

 ――東・名・阪エリアについては、アカウントマネジメントを強化することで売上、利益とも最大化を目指すとのことですが、その具体的な手法について教えてください。

 

 竹添 グローバル顧客を中心に、専任の営業責任者を配置する「アカウント事業所」を設置していきます。現時点では、日系のグローバル企業を中心とした175社を対象にアカウント事業所の設置を計画しており、1月の段階でその半分弱となる84社の立ち上げを終えています。残りについても、今年中のなるべく早期に立ち上げを完了する予定です。

 

 例えば、お客さまの意思決定部門が東京にあったとしても、工場や倉庫など実際にサービスを提供する現場が地方にあるケースは少なくありません。さらに、モビリティ業界や電機・電子業界などのグローバル企業では、ビジネス現場の大半が海外であることも珍しくありません。そのため、アカウント事業所を担う営業責任者は、地方や海外にある物流現場と幅広く連携していくことによって、お客さまのSCのEnd to Endをカバーしていくことを目指していきます。こうした取り組みはまったく新しい試みというわけではなく、これまでも一定数のお客さまに対し同様のスタンスでサービスを提供してきました。ですが、今回の組織再編を機に、そうした方針をさらに拡大・強化し、対象となるお客さまも大幅に増やしました。

 

 また、アカウントマネジメントを強化することで、お客さまのSC全体の中で当社の手が届いていない領域や獲得できていない業務が少なからずあることが見えてきました。そうした分野をターゲットに、NXのサービスをより広い範囲で使っていただく提案を行うことも営業責任者の重要な役割となります。

 

 ――アカウント事業所の設置対象となる175社はどのような業種が多いのでしょうか。

 

 竹添 半導体関連やモビリティ、電機・電子などの業種に加え、大手飲料・食品メーカーやアパレルなどが主な対象です。NXグループの経営計画において重点産業に位置付けている業種が中心となります。

 アカウント事業所はお客さまの意思決定部門があるエリアに配置することが基本ですが、どのような体制でお客さまと向き合うべきか、営業やカスタマーサービスをどのように配置すべきかについては、営業責任者の裁量にかなりの部分を委ねています。

従業員との丁寧な対話を重視

 

 ――今回はかなり大がかりな組織体制の見直しです。実施に際して従業員との対話を重視したと聞いています。

 

 竹添 これまでの当社の組織再編は、機関決定してから社内外にオープンにすることが常でした。しかし、今回に関しては、1年以上前から構想をある程度開示して、社内の様々な意見を聞きながら進めてきたという違いがあります。また、私自身も昨年1月に社長に就任して以降、全国各地でタウンホールミーティングを30回以上開いてきました。そこで全国の現場社員と対話を繰り返しており、その中で社内カンパニー制を実施する目的などについても丁寧に説明してきました。

 

 そうしたプロセスを経たこともあり、従業員にとってはいきなりという受け止め方は少ないだろうと思います。ただ、どのような組織再編でも同様だと思いますが、人は変えることに納得するよりも、変わることに対する不安が先に立ち、その不安が解消されなければ不満になっていくことが往々にしてあります。そうした懸念について幹部社員と共有し、従業員に腹落ちしてもらえるよう丁寧なコミュニケーションを心がけています。

 

 1月から新体制に移行したわけですが、今のところ大きな混乱は起きていません。ただ、引き続き丁寧な説明を続けていきたいと思っています。

 

「支店作業会社」を本体に統合

 

 ――今回の組織再編では、社内カンパニー制の導入とともに、各支店に付随する作業会社を日本通運本体に吸収・統合しました。その狙いについて教えてください。

 

 竹添 今回、「支店作業会社」と呼んでいる80社あまりの子会社のうち、9割程度を日本通運本体に統合しました。その目的は主にガバナンス強化にあります。当社では40~50年前に支店単位で作業を専門的に請け負う会社を分社化してきました。その時は、別会社化による人件費の引き下げなどを含め、そうした手法を選んだほうが効率的な経営ができるという判断があったのだと思います。しかし、昨今の企業経営では、組織やガバナンス体制の整備を通じて会社としてのブランド価値を維持・向上させることがより重視されています。そのためには、別会社のままでいるよりも本体化することによって、品質や安全、コンプライアンスの徹底といった当社が最重要視する事項について、同じ目線やレベル感で取り組んでいく必要があると判断しました。

 

 また、支店作業会社を設立した当時とでは、当社の事業形態も大きく変わっています。ペリカン便についてはすでに撤退していますし、アロー便を主体とした小口貨物については、オペレーション機能を名鉄NX運輸に集約しており、当社は小口貨物の販売に徹していくという形になっています。そうした状況においては、各支店の下に作業会社があるという必然性自体が薄まってきたとも言えます。

 

 加えて、別会社として存在している時間が長くなると、どうしても本体との連携が弱まってしまう面があります。例えば、支店作業会社が車両やドライバーを抱える一方で、日本通運本体の支店にも車両・ドライバーがいるという現場が少なくありませんでした。しかし、そうした現場で双方のリソースをムダなく補完し合っているかと問われれば、組織が違うことによってムダが生じていた面が散見されました。そこを一体化することで効率化を図ることができると判断しました。

 

 ――先ほど社名が出た名鉄NX運輸ですが、NXグループの特積み・小口貨物事業を切り出し、名鉄運輸に統合することで誕生しました。

 

 竹添 まず第1弾として、主に特積み幹線輸送を担っていたNXトランスポートを24年4月に名鉄運輸に譲渡しました。次に日本通運本体に残っていたアロー便事業についても、名鉄運輸を引き受け先とした事業承継という形で25年1月に統合し、社名を「名鉄NX運輸」に変更しました。今後は集配などのオペレーション機能は名鉄が担い、当社は営業や小口貨物の販売を中心に行っていきます。

 

 ――特積・小口貨物事業の切り出しだけでなく、日本通運本体にあった専門性の高い事業部門を分社化する取り組みが続いています。その狙いについてあらためて教えてください。

 

 竹添 23年1月に現金輸送などの警備輸送事業を「NXキャッシュ・ロジスティクス」として分社化したのに続き、今年1月には重機建設事業を分社化した「NXエンジニアリング」が発足しました。

 

 警備輸送もそうなのですが、とりわけ重機建設事業は非常に高い専門性を必要とします。例えば、風力発電の羽根といった超重量物の設置・据え付けなど建設業に近い業務内容もあり、一般的な物流業務で培った知見だけでは対応できない面があります。

 

 そうした中で、採用については日本通運という形で一律に行ってきましたが、今後はより業務の専門性に即した人財を採用していく必要性が高まっています。そこで、分社化することによって、人事・賃金制度やガバナンス体制についても事業会社が主体的に判断・実行できる体制に切り替えました。

 

 とはいえ、分社化することで日本通運本体との連携が弱まる懸念がないわけではありません。専門性・独立性が高い一方で、これまでも重機建設事業部だけでオペレーションが完結していたわけではなく、当社の他部門と連携しながら行っていた業務はたくさんあります。とくに地方での港湾整備プロジェクトなどがそれに該当します。そのため、分社化しつつも緊密な連携を担保できる仕組みをつくっていく必要があります。その点についてはしっかり手を打っていきます。

1 2 3
続きを読む

購読残数: / 本

この記事は登録会員限定です
この記事は有料購読者限定記事です。
別途お申し込みをお勧めします。