カーゴニュース 2025年3月4日 第5320号
事業軸と顧客軸でネットワークの一体化を維持
――社内カンパニー制への移行によって、ネットワークの一体化が薄れるのではないかとの懸念も指摘されています。
竹添 組織が分かれる中で、一体化に向けた横串をどのように刺していくかについては「事業軸」と「顧客(アカウント)軸」の2点で考えています。
事業軸とは通運や国内航空、内航海運、特積み・小口貨物など輸送を中心とした各種機能であり、これらについては各担当部門とカンパニーが緊密に連携していくことで全国ネットワークを維持・強化していきます。
顧客(アカウント)軸は、まさにこれから強化していくポイントです。先ほども少し述べましたが、当社がアカウント事業所を置くお客さまは、本社機能が東・名・阪などの大都市部にあったとしても、工場や物流センターなどの現場は全国各地に広がっています。お客さまに満足していただけるサービスを提供していくためには、アカウント事業所が主体的に各カンパニーや全国の現場と連携・調整していくことが不可欠となります。この2つの軸によって一体的なネットワーク運営を実現していきます。
――ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)をKPIに掲げる中で、今後の設備投資については投資効率を見極めながらメリハリをつけていくことになるのでしょうか。
竹添 当然ながら、投資効率についてはこれまで以上にしっかりと見極めていきます。社内からも、マーケット規模が大きい東・名・阪への投資が中心となり、EastやWestにはあまり投資しないのではないかという声が聞かれますが、そのようなことはまったくありません。実際、昨年だけでも北海道恵庭市に半導体関連の拠点として「NX-TECT Hokkaido」を開設したほか、佐賀県鳥栖市や熊本でも大型倉庫に投資しています。
ただ、資本効率については、これまで以上に重視していきます。そのことは、NXグループとしての方針であるとともに、資本市場から強く求められていることでもあり、市場の要請に合わせていくことがグループとしての企業価値の向上につながるからです。ですから、拠点投資に関してはエリアというよりも、顧客やマーケット動向などを見極めながら総合的に判断していくことになります。総合的にというのは、その場所に倉庫を開設することで、例えばフォワーディング業務の新たな獲得につながるといった相乗効果を含めて幅広く検討していくということです。
日本強じん化とグローバル成長は不可分
――NXグループでは「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」になるという長期ビジョンを掲げています。今回の日本事業の強じん化・再構築戦略をグローバル成長にどのようにつなげていくことができるでしょうか。
竹添 やはり柱となるのはアカウントマネジメントの強化です。今、多くの日系企業が海外事業を拡大しています。NXグループも37年に海外売上高比率を50%以上に高める目標を掲げていますが、例えばモビリティ関連や電機・電子業界のお客さまの多くは、現時点においても海外売上高が6~7割に達しています。お客さま自身は常にグローバル市場を意識しながら自社のSCを構築しており、我々はそこに早くキャッチアップしていく必要があるわけです。アカウント事業所は国内に設置しますが、海外と緊密に連携しなければ効果的なアカウントマネジメントを強化することはできません。つまり、真のアカウントマネジメントを追求・強化することができれば、必然的に海外売上高は増えていくことになります。その意味からも、日本事業の強じん化はグローバルでの成長戦略に直結していると言えるわけです。
――まさに「日本市場で勝つことなしに、グローバルでの成功はない」ということですね。
竹添 もうひとつは、倉庫を中心としたロジスティクスです。日本における倉庫オペレーションや、倉庫を起点とした輸配送サービスをさらに磨き上げ、海外グループ会社の見本になれるように実践していきたいと考えています。逆に、海外の進んだ技術を日本に積極的に取り入れていくことも大事です。海外でお客さまのお役に立っていることが、日本国内での信頼につながりますし、その逆もまた同様です。そうした相乗効果を生み出していきたいと思っています。
――そのためには、倉庫内オペレーションの自動化・省人化も重要です。
竹添 必須だと考えています。これまでも色々と手を打ってきましたが、まったく十分ではありません。今後の労働人口の減少を考え合わせると、現在人手に頼っている業務をかなりの比率で自動化していかなければ、生き残ることができないと考えており、取り組みをさらに加速させていきます。
――「2024年問題」への対応についてはいかがでしょうか。
竹添 現時点では、大きな混乱は起きていません。まず、当社グループの自社戦力については、かなり前の段階で、政府のレギュレーションに沿った対応が完了しています。しかし、協力会社の一部にはまだ対応が万全でない部分が残っています。また、様々な対応を進めたことで、人件費や外注費のコストアップが続いています。当社として協力会社からの値上げ要請を受け入れる一方、そうした状況をお客さまに正直にお伝えして、転嫁をお願いしていく取り組みも不可欠になっています。
いずれにせよ、ドライバー不足をはじめとした物流を巡る課題はさらに深刻化することが予想されており、根本的な課題はまだ解決できていません。当社も、政府からの後押しなどを受けながら労働条件や待遇面での改善を進めていますが、効果が目に見える形で現れるまでにはもう少し時間がかかりますし、その間にも働き手不足は待ったなしで進みます。モーダルシフトや共同配送などの推進をさらに加速しなければなりません。
人財育成をさらに強化していく
――人財育成の取り組みも今後さらに大事になります。
竹添 ひとつはロジスティクス人財の育成です。幅広い顧客層に対応していくためには、専門的な知識を習得していくことが重要です。当社では数年前から「Logistics Boot Camp」というブログラムを開始しており、今後もそうした取り組みを継続・強化していきます。フォワーディング業務などについても、実地で学ぶことができる機会をより多くつくり出すよう、海外や国内の研修制度を拡充していきます。
また、教育という位置付けではないものの、当社グループでは「ポスキャリ」という制度を数年前から始めています。グループの各部署がポストを社内公募し、社員が応募できるというものです。当社内には多様な仕事がありますので、新たな分野を経験することで、スキルアップの機会につながります。そうした取り組みを通じて、人財のさらなる成長を促し、それをNXグループの成長につなげていきたいと考えています。
――社長就任から1年が経過しました。
竹添 あっという間に時間が過ぎたというのが率直な感想です。ただ、1年が経ち、まだまだ十分ではないにしても、自分なりに理解できたこと、見えてきたことがあるのも確かです。それをより具体的かつスピーディーに施策として実施していきたいと考えています。昨年度からスタートした5ヵ年の「NXグループ経計画2028」は2年目に入りました。その中で日本事業については、国内景気が若干低迷していることもあり、計画からややビハインドしていますので、まずは計画の軌道に乗せ戻したいと思っています。
竹添 進二郎(たけぞえ・しんじろう)
1963年8月16日生まれ、61歳。長崎県佐世保市出身。86年上智大学経済卒、同年日本通運入社。2015年海外管理部長。18年執行役員南アジア・オセアニアブロック地域総括兼南アジア・オセアニア日本通運社長。21年常務執行役員。23年取締役兼常務執行役員、24年1月現職
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