カーゴニュース 2025年10月16日 第5379号
日本通関業連合会(通関連、岡藤正策会長)は8日、「通関業の日」の記念講演会と懇談会を開催し、会員、財務省関税局・税関、関係法人・団体から約300人が出席した。黒田東彦氏(前日本銀行総裁・政策研究大学院大学政策研究院シニア・フェロー)が講師を務め、「世界経済の分断化~ウクライナ戦争とトランプ関税の影響~」をテーマに講演した。
世界経済の分断、対ロ制裁の影響は長期化
黒田氏は、ロシアによるウクライナ侵攻後にG7がロシアに対して課した貿易・金融制裁や、国外送金の国際銀行間通信協会(SWIFT)システムからロシアの銀行の排除、ロシア中央銀行の外貨準備ドルの凍結と新興国のドル離れなどによる世界経済の分断化は「経済制裁が取り払われても元の状態には簡単には戻らない」との見方を示した。
一方、トランプ関税については米国の経済成長に対するマイナス影響が見込まれ、「次の大統領は米国経済にとってマイナスが大きい関税を続けるとは思えない。米国関税による世界経済の分断化はマキシマムで(トランプ大統領任期中の)3年半で、長期的に影響を及ぼすことはないのではないか」と展望した。
また、物品の貿易に比べ、サービス貿易の伸びが著しく、「サービス貿易が物品貿易を上回る可能性もある」と指摘。物品の貿易が通関統計により全量把握できている一方で、サービス貿易は内容によって担当省庁が異なるため全貌を把握できておらず、「情報を集約するシステムがなければ、それに対応する政策をとれない」と課題を指摘した。
認定アドバイザー制度で新たな職域にチャレンジ
懇談会で岡藤会長(阪急阪神エクスプレス)は、「アメリカのトランプ大統領は自分の辞書の中で最も美しい言葉は『タリフ』だと発言し、年初からタリフ、関税について報道されない日はないほど関税が注目された。関税の専門家として通関士が脚光を浴びることになったのは、我々にとってはチャンス以外の何物でもない」と強調。
さらに、「連合会では6月に『EPA関税認定アドバイザー』と銘打った認定制度を創設した。通関士の仕事が近い将来、AI、RPAに取って代わられるのではないかという危機感から、通関士が新たな職域にチャレンジするきっかけを提供し、通関業が持続可能なものになることを目指している」と説明した。
この制度は企画から実施までわずか3ヵ月という大変短い期間だったが、関税が注目されている『天の時』、EPAの利活用促進という政府の方針と通関士の専門性が合致した『地の利』、そして財務省関税局、民間の有識者の知恵が集合した『人の和』――。この3つが一体化したことが成功のカギだったと思う」と関係者に謝辞を述べた。
3月に京都で開催したIFCBA(国際通関業連合会)世界会議の最終日に「持続可能な経済成長」「平等と包摂」「国際協力の強化」「教育・人材育成・公正性への投資」を盛り込んだ「京都宣言」を採択したたことに触れ、「世界の分断化が進む現状の中で非常に意義のある成果だった」と振り返った。
8月にタイの通関業会とMOU(覚書)を締結したことも報告し、「一昨年のインド、昨年の中国に続き、今年は韓国、タイとの間でMOUを締結することができた。各国の通関業会とのMOU締結はミャンマー、モンゴルを含め計6ヵ国となったが、今後も拡大に努めていきたい」と意欲を見せた。
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