カーゴニュース 2026年1月20日 第5403号
「宅急便」が1976年1月20日に誕生して今日で50周年を迎えた。最初の3日間での取扱個数はわずか11個だったが、利用者の〝便利〟をかたちにしていくことでサービスを進化。いまや生活になくてはならないサービスとして年間23億個超を取り扱うまでに成長を遂げた。ヤマト運輸の阿波誠一社長に宅急便の〝これまで〟と〝これから〟について話を聞いた。(インタビュアー/西村旦)
――宅急便の誕生から本日で50周年を迎えました。
阿波 お客様をはじめ、各地域のパートナー様など宅急便に関わるすべての関係者の皆様にあらためて感謝を申し上げたいと思います。
宅急便が全国津々浦々まで浸透し、皆様に利用してもらえるサービスに成長できたのには、先人である我々の諸先輩の努力や苦労もありましたが、それだけでは到底なし得ることはできませんでした。宅急便を愛し、支えてくださった皆様の力が成長の原動力になりました。そのなかでも、私はとくに草創期において取扱店の存在が非常に大きかったと思います。街のお米屋さんや酒屋さんなどが、いわゆる「三河屋さん」として地域の御用聞きを行うなかで、宅急便というサービスの存在を広めてくれました。お店の前に宅急便の看板と幟(のぼり)旗を立てることで、利用者の目に触れる機会が劇的に増え、認知度を高めることにつながりました。街中を走る集配車とともに、宅急便のブランディングを確立する上で大きな役割を果たしたと思います。
また、全国ネットワークをつくり上げていくプロセスでは、M&Aを通じたパートナーの皆様の協力も不可欠でした。サービスを開始した最初の3日間の取扱個数がわずか11個だった宅急便が、年間23億個超を取り扱うまでに成長できたことは、繰り返しになりますが、一緒に支えていただいたお客様や関係者の皆様のおかげだと思っています。それに恥じないよう、50周年を機に宅急便をより良いものにしていきたいとあらためて心に誓っています。
「ゼロイチ」のサービスだった宅急便
――宅急便は、戦後の物流史における最大のヒット商品であるだけでなく、国民の生活やライフスタイルを大きく変えたサービスとして、特筆されるべき存在だと思います。ここまで国民の生活に浸透した最大の要因は何だと思いますか。
阿波 ひと言で言えば、宅急便が「ゼロイチ」のサービスだったということだと思います。わかりやすい料金体系で、電話一本で集荷にうかがうなど、利用者側の目線で「あったらいいな」をかたちにすることを繰り返してきた歴史でした。そういう意味で、今までになかった画期的なサービスを生み出した、つまり「ゼロイチ」だったということに尽きるのではないでしょうか。
1976年1月にサービスを開始して以来、2000年頃までの前半の約25年間は、荷物を出す利用者の困りごとや「こういうサービスがあればもっと便利なのに」というニーズを次々と実際のサービスに変えてきた時代でした。例えば、83年にスタートした「スキー宅急便」は長野県の宅急便営業所に所属するセールスドライバー(SD)の発案をもとに商品化したものです。当時、長野ではりんごの出荷が一段落して冬が来ると、運ぶ荷物がなくなり、商売としては閑散期を迎えていました。そうした時に、SDの目に入ったのが、スキー客が抱えているスキー板でした。これを運べばスキー客も手ぶらで楽に移動できると気づいたことが商品化のきっかけになりました。
さらに翌84年には、同様の考え方から「ゴルフ宅急便」が発売され、さらに88年には農水産品の生産者の「購入者により良い鮮度のままダイレクトに届けたい」というニーズに応えるかたちで「クール宅急便」が始まりました。クール宅急便は、今では当たり前になった産地直送を可能にするなど、生鮮品の流通を変えるほどの画期的なコンセプトだったと思います。その後、そこにコレクト(代金引換)や決済に関する新たなサービスを付加することで、生産者がより販売しやすくなり、産直文化が浸透していきました。あらためて振り返ると、常にお客様のニーズに応えてサービスを進化させ、それによってお客様がさらに利用を増やしていただけるという繰り返しが宅急便の成長エンジンだったのだと思います。
――SDを中心とした現場のアイデアを本社が吸い上げながら新サービスや商品開発につなげていった歴史とも言えますね。
阿波 毎日、全国各地で数多くの荷物を配達しているSDには、お客様からの様々な声が聞こえてきます。そうしたニーズや要望をどのようにして解決していくか、どういったかたちで新サービスにつなげていくか――。本社が現場の意見を汲み取りながら試行錯誤を繰り返してきた歴史だったと言えます。例えば、クール宅急便などは大型投資を伴うものであり、当時の社内には反対意見も少なからずあったと思います。勝算がはっきり見えていない状況のなかで、次々と新商品を生み出し、荷物を増やしていった諸先輩の努力やチャレンジ精神には頭が下がる思いがあります。
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