カーゴニュース 2026年1月20日 第5403号
被災地のライフラインだった宅急便
――阿波社長は93年の入社ですが、これまでのお仕事のなかで印象に残っているエピソードはありますか。
阿波 たくさんありますが、ひとつ挙げるとするならば震災が起きた際に発揮される現場の底力やお客様から寄せられる信頼の高さは強く印象に残っています。16年4月に熊本地震が発生した時、私自身も現地に赴きましたが、被災者のある女性から「とりあえずクロネコを動かしてほしい。ヤマトさえ動けば私たちは何とか生活できるから」と言われた言葉が忘れられません。その言葉を聞いて、宅急便はラストマイルネットワークである以上に、むしろライフラインネットワークのような存在なのだとあらためて感じました。
また、地域密着で仕事をするSDの凄さを感じた場面も数多くありました。各地から届く荷物を避難所にいる被災者に届けにいくのですが、ある時、SDが避難所の中に入らずに外から電話をかけていました。「このお客様には息子さんがいて、その息子さんから荷物が届いている。ただ、被災者のなかには子どもがいない人も多いので、避難所の中まで持っていったら、かえって引け目を感じてしまうかもしれない」と言いながら、避難所の外に呼び出して荷物を手渡ししていました。あくまで一例に過ぎませんが、彼らSDは日々の顧客接点のなかで、常にお客様のことを深く考え、気遣いながら仕事を行っていることに感動したことを鮮明に覚えています。
こうした臨機応変な対応は、会社がマニュアルとして教えようとしてもなかなかできることではありません。時にはお客様から厳しいお言葉をいただきながら、期待に応えようと頑張っているうちに、だんだんと身についてくるものだと思います。SDにとっての喜びのひとつは、お客様から名前で呼ばれることです。これは担当するエリアでの認知度が上がり、仕事ぶりをお客様から認められた証でもあるからです。そう考えていくと、宅急便は、お客様や地域の皆様によって育てられてきたビジネスであることがよく分かります。震災のときに、自分の家も被災しているにもかかわらず多くの社員が会社に出てきて、何か地域のためにできることはないかを考えている――。こうした姿勢やDNAは我々が誇るべきもうひとつのブランド価値だと思っています。
――顧客や地域とのエンゲージメントによってSDの使命感や仕事に対する意識が高められていく面は間違いなくありますね。
阿波 最近は「置き配」の利用が増えるなど、宅急便を取り巻く環境がだんだんと変わり、お客様との接点が薄れていく面があることは確かです。ただ、それでも対面配達はなくなりませんし、対面した際にはお客様の声をしっかり聞き、それに応えていくという当社が築いてきたサービスの根本は今後も変わることはありません。
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