トラック適正化二法の施行スケジュール

カーゴニュース 2026年1月6日 第5400号

「トラック適正化二法」特集

テーマ④トラック適正化二法
適正原価と許可更新制の〝アメ〟と〝ムチ〟

2026/01/05 16:00
全文公開記事 FOCUS 行政

 A 昨年6月に成立した「トラック適正化二法」について話を移そう。正式には「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」と「貨物自動車運送事業適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」であり、今後1年から3年かけて段階的に施行される。「事業許可更新制」の導入や「適正原価」の導入、委託次数の制限、白トラへの委託禁止、労働者の処遇改善――などがおもな内容だ。

 

  これは政府が国会に提出する「内閣提出法律案(閣法)」ではなく、国会議員が提出する「議員立法」として成立した。議員立法は制度を大きく変える意味合いが強いと言われているけれど、まさに今回の法律はトラック運送業界のあり方をガラリと変えていくような法律だ。

 

  まず、改正物流効率化法が大手の荷主に対する中長期計画策定やCLO選任の義務付けなど荷主規制に主眼が置かれているのに対して、トラック適正化二法は業界内部の規制、すなわちトラック業界が自らの襟を正すことに主眼が置かれた法律と位置付けられる。

 具体的には、トラック業界が健全に発展していくためのいわば「身を切る改革」として、事業許可更新制を盛り込んだ。従来一度事業許可を取得すれば、よほどの大事故や悪質な違反がない限り半永久的に許可が維持されたが、これからは5年ごとに行われる審査をクリアできなければ事業が継続できなくなる。審査項目は法令順守の状況や安全管理体制、財務の健全性、労務管理、事業実態等と言われているが、要するに「トラック事業を経営するのに不適切な会社」には事業を継続させないというのが趣旨だ。

 

 言い換えれば、ブラック企業を市場から退出させて、ホワイトな業界を目指すということだよね。私は許可更新制の導入に対してもっと業界から反発があると思っていた。というのも、民間の調査によるとトラック業界は行政処分件数が最多の業種で、許可更新制によりふるいにかけられる会社はかなり多いとみられる。その中でトラック適正化二法がスムーズに業界に受け入れられた理由は「適正原価の告示」という〝アメ〟と「許可更新制」という〝ムチ〟をセットにしたからだと思う。

 

  その「適正原価」なのだが、これは文字通りの「原価」に再投資が可能な原資を上乗せしたものだ。トラック適正化二法では、トラック事業者に「適正原価を下回って受注してはいけない」と規制するだけでなく、荷主にも適正原価を下回る運賃での発注を禁じている。現時点で公表されている情報から推定すると、「適正原価」はかなり高めに設定された「最低保証運賃」のような印象を与える。「事業を更新するためには、高めの運賃をもらわなくてはならない」というトラック事業者にとって好都合なロジックを組んだからこそ、業界からの反発もなかったのではないかな。

 

  「適正原価」が〝お上〟のお墨付きの運賃タリフとなり、守らない荷主は法令違反となるのだから相当に甘い味の〝アメ〟だと言えるね。

 

 B 一方で「適正原価」は本当に実効性があるのだろうか。6万社もあるトラック事業者の運賃を国が監督していくというのはさすがに無理なのではないか。国がトラック業界の適正取引をしっかり監督していこうというのであれば、監督しやすい業界構造にしなくてはならない。他の業界を見ると、中小の監査法人を金融庁がきちんと監督するために、合併させて一定規模にしていくべきだという議論もある。国としてトラック業界の取引に対し監督を強めるのであれば、監督の実効性を担保できるような業界構造に変えていくべきだし、中小零細事業者を一定程度集約していく必要があるのではないか。

 

  その方向は許可更新制で事業者の数を絞っていく方針と合致している。トラック適正化二法で事業許可の更新が認められるための要件は「法令を遵守して事業を遂行できること」がいの一番となるらしい。「コンプライアンスを守れないなら商売するな」ということだね。

 

  そもそも、最初に事業許可を得るためには、事業を行うための資金と車庫、営業所があり、運行管理者や整備管理者がいることが必要となる。加えて、1営業所に最低5台のトラックを保有していることを要件としている。それに加えて、国交省は昨年4月に新しい通達を出した。事業許可を取得する際に提出した事業計画と現状が異なっている――たとえば5台必要なトラックが3台しかない場合は、最初に届け出た通りに事業を行うよう命令し、命令違反は行政処分を行い、事業許可取り消しも行えるようにした。すでに現行の制度でも「5台割れはNG」となっていて、命令違反が重なると事業許可取り消し処分を受けることになる。現行制度の延長線上で、新たな許可更新制度でも、最低保有台数5台を守れていなければ事業許可は認めないことになる。5台割れの事業者は増車するか廃業するかの選択を迫られる。

 

 E 廃業や身売りする企業も増えるだろうから、M&A仲介会社にとっても特需があるかもしれないね。

マイケル・ポーターの5つの競争要因をトラック業界に当てはめると…

更新業務のマンパワー不足、「営自格差」が課題に

 

  ちょっと歴史を振り返ってみようか。約35年前に物流二法が制定された際にも、許可更新制を導入するアイデアが検討されたと聞く。最終的に実現しなかったのは、当時で約4万社あったトラック事業者を審査するためには膨大なマンパワーが必要で、当時の運輸省の労働組合から強い反対が出たようだ。それに対して今回、許可更新制が実現できた理由のひとつは、新たに審査や更新業務を担当する「独立行政法人」をつくるからだ。

 

 トラック適正化二法が〝アメ〟と〝ムチ〟をセットにしているというのはその通りだと思う。加えて、許可更新制の導入は必然的な流れだったとも感じる。これだけ行政処分が多い業界であるにもかかわらず、いままで許可更新制が導入されていないということ自体に違和感がある。荷主にも規制がかかるご時世に、コンプラアンスを守らないトラック事業者の事業継続を黙認することは到底理解されないだろうと思う。あとは、現実的なオペレーションの問題として、どこまで実効性を担保できるかだ。

 

 他方、別の切り口から見ると、トラック適正化二法は、「営自格差」という点で課題があるように思う。トラック運送には、営業用の「緑ナンバートラック」と、自家用の「白ナンバートラック」の2つが存在する。少しずつ自家用から営業用への転換が進んでいるものの、依然として白ナンバートラックが大量の自社貨物を運んでいる現実がある。

 

 もちろん、国交省やトラック協会も、積載率など輸送効率が高くCO2排出量も削減できる緑ナンバーの優位性をアピールし、白ナンバーからの切り替えを促す「自営転換」を進めている。しかし、今回のトラック適正化二法は、許可更新制によって緑ナンバートラックへの規制を強める内容となっており、この面だけをとらえると「自営転換」を阻害する要因になり得てしまう懸念がある。つまり、許可更新制が緑ナンバートラックだけに適用されることによって、「それなら白ナンバーのままでいいや」ということになりかねない。現状、自社製品を白ナンバートラックで運んでいる食品卸などが、緑ナンバーに切り替えることのインセンティブが薄れてしまう。あるいは、緑ナンバーを取得している荷主系運送会社が、白ナンバーに切り替える〝逆流〟が起こる可能性も考えられる。

 

 そう考えると、今後はいかに営自格差を政策的に担保できるかが大事になってくる。例えば、暫定税率の廃止に伴って存廃が議論されているトラック交付金(運輸事業振興助成交付金)は、緑ナンバー事業者だけを対象とした制度であり、これがなくなってしまえば営自格差が縮小してしまうことにもつながってしまう。そういう観点から交付金制度の意義を見ていく視点も必要だ。

 

  トラック運送業界は現状、間違いなくオーバーカンパニーになっている。事業者の数が多いということは、過当競争になり、安値受注に走りやすい。安値受注するために、安全にかけるコストを削減したり、労働時間をごまかすといったコンプライアンス違反を助長しかねない。行政処分の件数の多さも、事業者数が多いことと無関係ではないだろう。「適正原価」や「許可更新制」などの運用が実際にスタートし、業界の健全な競争環境が整備されていく中でも、抜け道を狙って安値受注をしようとする事業者が出てくることも考えられる。そうした事業者を取り締まる仕組みをきちんと作っておかないと、制度としてうまく機能しないのではないか。

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