カーゴニュース 2026年3月5日 第5416号
ライトアセット戦略に転換する理由とは
――低収益不動産の売却について、詳しくおうかがいします。「Tokyo C―NX」の売却は正直に言って非常に驚きました。
大槻 たしかに社内外ともに大きなインパクトがあったと思います。「Tokyo C―NX」はある意味でNXグループが保有する資産の象徴的な存在です。社内でも驚きを持って受け止められ、とくに倉庫事業部門では緊張感が高まったことは想像に難くありません。
当社は古い会社ですので、含み益がある土地をたくさん抱えています。これらは諸先輩方が大事に維持してくれた資産であり、これまでは売却してはいけないという暗黙の了解のようなものがありました。しかし、海外投資家が増え、当社に限らず日本企業が持つ土地などの含み益が問題視されるような時代を迎えています。様々な考え方があるとは思いますが、時代の変化を踏まえつつ会社としての考え方を整理するとともに、含み益をキャッシュに変えて資産を入れ替え、新たな成長投資に充てていくという対応策を講じる必要がありました。
――日本の物流会社では、長期保有して減価償却が終わった倉庫で収益を安定的に稼ぐビジネス手法を長く続けてきました。
大槻 まさに、それがかつての当社における「勝ちパターン」だったわけです。しかし、海外ではすでに欧州のメガフォワーダーを中心にライトアセット志向が主流になっています。PLだけを見ていればよかった時代には、土地のコストがPL上にはほぼ反映されないために、従来のビジネスモデルでもそれなりの利益を生み出すことができていました。しかし現在は、土地の簿価を時価に変えてROIC(投下資本利益率)の利回りで見た時に、その資産がどれくらいの利益を生み出しているのかが厳しく問われる時代になってきたということです。
当社では昨年、一定規模以上のすべての倉庫を対象に時価ROICを算出してみましたが、とくに土地の時価が高い都市部にある倉庫については時価ROICが低いという実態が浮き彫りになりました。そこで現在、時価ROICが5%を下回る不動産を低収益不動産として位置づけて収益改善を促すとともに、改善が難しい拠点については売却の対象にしていく方針を固めています。すでに売却を実施したものを除くと、約200拠点がリストアップされています。
――それが26年に予定している200億円規模の低収益不動産の売却に含まれるということですね。
大槻 そういうことになります。ほぼすべての拠点が倉庫事業を運営中であるため、お客様との契約期間が残っているものについては、いったん外部に売却するものの、セール&リースバック方式で借り戻し、契約期間が終了するまで業務を継続していきます。つまり、日本国内では今後、徐々にライトアセット型に移行していくことになります。
ライトアセットを志向せざるを得ない背景には別の要素もあります。いま建設コストが非常に高騰しており、老朽化に伴って建て替え計画を進めていた社有倉庫についても、現在の建設コストに置き換えて時価ROICを算出すると、我々が求めている水準に届かないケースが大半を占めています。また、償却済みの社有倉庫は原価が見えにくいという理由もあります。長期間にわたって仕事を請け負っているお客様の場合、倉庫の老朽化が進むと料金改定に応じてもらえず、逆にもっと安くなるだろうと言われてしまうケースが少なくありません。これに対し、外部倉庫を借りた場合は、時価相場や近隣相場などが客観的なデータとして可視化できるため、価格が転嫁しやすくなるという事情もあります。その結果として、国内ロジスティクス事業の収益向上につながることにもなると考えています。
いずれにせよ、資産の所有の仕方を巡る経営の考え方が従来とは大きく変わりつつあることは確かです。これまでは社有資産を極力売却しないという方針のもと、資産をいかに維持・保有し続けるかが経営の優先事項でしたが、現在は事業を成長させるためにはどこに資産を持つことが最適なのかを考えることが重要テーマになっています。資産中心から事業中心に目線を変えざるを得ない時代に転換したということです。
――ご説明はよく分かるのですが、ドラスティックな変化に対して、現場では戸惑いの声もあるのではないでしょうか。
大槻 長い間そうしたことを言われてこなかったわけで、現場では当然、戸惑いがあると思います。ただ、言っていることが一定程度ロジカルであることに加えて、我々だけが求めているわけではなく、むしろ外部からの要請が強まっているという現実を踏まえれば、理解がしやすくなるとも考えています。拠点の統廃合などが進めば従業員の勤務場所が変わることも起こり得るので、外部からの客観的な視点や見方を取り入れながら、社内で丁寧な説明を行っていきます。
――長期ビジョンで海外を主戦場とする成長戦略を掲げている以上、そこからバックキャストしていけば、必然的にこうした経営の方向性を志向せざるを得ないということですね。
大槻 そうだと思います。国内についてはこれ以上投資をしないというわけではなく、国内でいい案件があればもちろん投資は行っていきます。ただ、その資金は国内事業の中で生み出していく必要があります。グループ全体の大きな傾向を俯瞰すれば、国内に圧倒的な含み益があるので、そこで生み出したキャッシュを海外での成長投資に振り向けていくという流れが強まるものと考えています。
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